三代目の決意 〜an example of executive coaching〜

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エグゼクティブコーチングの具体例について掘り下げることは、同じような問題を抱えている人々だけでなく、そのコーチャーにとっても有益である。

 

 

個別具体的な事例の中に潜む普遍性を抽出し、それを自分に当てはめる。これは問題解決能力の基本でもある。他者の問題を自分の問題として捉えることで、パブリックと自己の関係性に気づくこともできる。

 

 

今回、私が実際に行っているコーチングの中から、一つの事例を取り上げた。なお、相手方の賛同は得ており、本文の趣旨を損なわない範囲で、詳細な設定はぼかしつつ、変更を加えている。

 

 

また、エグゼクティブコーチングではありながら、私は状況によってコンサルティングやメンタリングの手法も取り入れている。その点、一般的なコーチングとは異なる部分もあるかもしれない。

 

 

今回取り上げるクライアントは、製造業を営む三十代前半の三代目経営者。洗練された自分の言葉を持っている。鍛錬も欠かさず、志も高い。この能動性は自然発生的に身についたのでなく、彼自身が彼自身の気づきによって人生をデザインした。

 

 

実際、家業を継ぐ義務感が色濃く表情や仕草に表れている二代目・三代目の経営者は少なくない。その受動性は社員や従業員に伝播している。経営上は問題点が見当たらない場合でも、実際に仕事場に足を踏み入れると雰囲気が重く澱んでいることもある。

 

 

そのクライアントが自分の会社を継ぐと決意したときも似たような状況だった。「自分のやりたいこと」をせよと啓発されても、実際に自分の目の前に敷かれたレールを超えるほどの「自分のやりたいこと」に見つけられるのは、ほんの一握りに過ぎない。

 

 

たとえ「自分のやりたいこと」を見つけたとしても、それは一過性や反発に根ざしている場合も多い。二代目や三代目が自らのレールを超えるには、それ以上の使命感に気づく必要がある。それに気づいた二代目や三代目経営者の目には奥行きのある輝きが宿る。

 

 

家業を継ぐという義務感を使命感と捉え直すことは、クライアントの人生の質だけでなく、従業員の人生の質も変化させる。私はそのことを早い段階で彼に示唆していた。使命感を持った人間の言葉は他者に響く。リーダーに使命感が求められるのはこのためだ。

 

 

使命感は、言葉を単に感情と情報を伝える手段から、心を伝える手段へと変える。心ないものは価値がない。心ない、徳のないリーダーは、窮地で力を集めることができない。行動経済学的視点で落ち着いて経営を俯瞰できるのは、比較的経営が順調な場合だ。盛者必衰を持ち出すまでもなく、いずれ訪れる経営的窮地に備える見識は、経営者の資質として見逃せない。

 

 

幾たびのコーチングを経て、そのクライアントは気づきを得た。

 

 

使命感は経営者を高みに向かわせる。しかし一方で、組織は高みを求める人の集団ではない。高みを求めるカリスマ的経営者に従業員がついて行けなくなるのは珍しくない。使命感を持った目的意識の高い経営者は、仕事に対して目的意識の持てない従業員の気持ちが理解できずに批判的となる。コミュニケーションを放棄して、しだいに距離が開く。

 

 

この三代目経営者も同じ悩みを抱えていた。

 

 

(続く)