To the mentors of the future

全世代の「教育力」を高める教育コーチのブログ

大人の偏差値

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学生時代、偏差値を全く気にしなかったという人はどれだけいるだろう。偏差値は平均からの距離。横並びの同調圧力が強い日本において、偏差値は母集団における自分の学力的位置を確かめる手段以上の意味がある。

 

 

与えられた問題をどれだけ解けるか。その正答率が数値化され、相対化される。劣等感と優越感をかきたてるその数値は有価証券のように扱われ、自分のことをよく理解していない大人たちに手渡され、なんとなく未来は決まってしまった。そう感じる人も少なくないだろう。

 

 

何のために勉強するか。その問いに対する答えとしてたびたび用いられるのが、questionとproblemの区別に関する話だ。

 

 

questionはあらかじめ正解の用意されている問題をいう。一般的な学校のペーパーテストの問題がこれに当たる。一方、problemとは正解が存在しない問題をいう。降りかかり実人生の諸問題や、どのように生きるべきかなどの重い問題を指す。

 

 

正解の用意されているquestionが解けなければ、正解の用意されていないproblemは解けない。だから勉強は必要である。これは人文科学の側から発せられたロジックのように思えるが、最も説得的かどうかは別として、学びの本質を考えれば最も妥当な理由のひとつだろう。

 

 

学生時代のquestionから解放されても、problemはそれ以上の重さをもって解決を要求してくる。questionの正誤はその都度はっきりするが、problemは違う。表面上は何ごともないように見えても、水面下で無言のうちに進行している。気づいたときは手の施しようがない。

 

 

実際、私に寄せられるコンサルティングやコーチングの要望の90パーセントは、個別的なproblemの問題解決に関するものだ。自分が抱える問題の解決方法は何か、どうすれば解決できるか。それについて相談を受ける。

 

 

残りの10パーセントの人々は、問題を未然に防ぐ力を求めて訪れる。医学でいう未病と同じ考え方だ。問題を解決する方法ではなく、できる限り問題が生じない考え方を身につけたいと願っている。

 

 

学生時代、questionを前にした人のほとんどは、次の5つのステータスのいずれかに属する。

 

 

① 何もしない                 [非解決]

② 答えを写す                 [錯誤的解決]

③ 目前の問題を解く              [点的解決]

④ 目前の問題の延長線上にゴールを位置づけて解く[線的解決]

⑤ 目前の問題を自分の力の一部と位置づけて解く [面的解決]

 

 

これらの数値の大きさは必ずしも偏差値と相関関係にあるわけではない。③のスタンスでひたすら問題を解く人が、70前後の偏差値を得るのも珍しくない。これはquestionとproblemの大きな違いだ。questionの特異性と言えるかもしれない。

 

 

この特異性がproblemの解決力とのズレを生じさせ、「questionを正解する偏差値は高いが、problemを解決する偏差値は低い」という現象が生まれる。学生時代の偏差値は高いが、問題解決力としての「見えない大人の偏差値」は低いのはこのためだ。questionと同じ意識でproblemに臨んでいる。

 

 

questionは「これが解くべき問題だ」と目前に提示されるが、problemにはそれがない。そのため「問題は何か」を見分ける力も必要だが、そもそも問題が発生していることに気づいていない場合も多い。

 

 

「目に見えるproblem」と「目に見えないproblem」を併せると、解決には8段階のステータスが存在する。

 

 

 

[目に見えるproblem]

 

① 目に見える問題に気づかない

② 目に見える問題に気づいているが、解決できない

③ 目に見える問題に気づいており、表面上解決した(事実上先送り)

④ 目に見える問題に気づいており、解決した。

 

 

[目に見えないproblem]

 

⑤ 目に見えない問題を発見できない

⑥ 目に見えない問題を発見できたが、解決できない

⑦ 目に見えない問題を発見でき、表面上解決した(事実上先送り)

⑧ 目に見えない問題を発見でき、解決した。

 

 

経験上、感覚的ではあるが、③が偏差値50のラインのように思える。表面上解決しようと動き、解決した気にはなっているのだが、根本的な解決に至らないため形を変えて問題が蒸し返される。

 

 

⑥は偏差値55、⑦は65以上だろうか。それほど「目に見えない問題を発見する力」は低下している。学生時代、目前に与えられたquestionはたくさん解いてそれなりの偏差値には維持できたが、目前に与えられない「目に見えない問題」を発見する力に欠けている。「これが問題だ」と指摘されるまで、問題を認識できない。

 

 

学生時代の偏差値は65、大人の偏差値は50。この属性の人々が最も偏差値ギャップに悩んでいるように見える。

 

 

 

(続く)

 

 

 

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