人生をアートと考える生き方

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ある山頂を目指して登っている。山麓は鬱蒼とした森林で、十分な日光も届かず、星の位置も確認できない。当初思い描いていたルートから外れて道に迷い、自分がどこを歩いているのかさえわからない。たまに木々の隙間から覗く山の頂きに向かって、ひたすら歩を進める。

 

 

幾つもの道が分かれるたびに立ち止まり、遠方にうっすら見える山頂の方角に向かって、それまで培った経験と教訓を頼りに、そのとき吹いている追い風に賭けて進んでいく。

 

 

やがて開けた見晴らしの良い場所に出る。そこから再び歩き始め、気づいたときには視界を遮る森林を抜け、岩肌が剥き出しの山道から山頂を見上げている。それは当初自分が目指していた道であり、改めてルートを確認してみると、出発点から最短距離を通ってきたことに気づくかもしれない。

 

 

それが最短距離だったと思える人は、さまざまな景色によって感性を潤し、豊かな人生観を育んできたのだろう。

 

 

トラックレースは自分と他人の速さを比べるレースだ。高速道路のように、景色と呼べる景色はなく、前方を走る車と、追い越し追い抜かれる車に気を取られる。速く走ることに追い立てられて、何周したか定かではない。長い時間が経過したことと、自分の順位だけははっきりしている。

 

 

満開の山桜、険しく切り立った崖、灌木が朽ちる無彩色の風景。迷いさまよって目にした山道で目に焼き付けた様々な風景の記憶が、自分だけの絵画に豊かな彩りを与える。

 

 

自分の人生とは世界中で自分だけが描ける絵をいう。トラックレースに行き詰まりと虚しさを感じた人々はこぞってその絵を渇望する。その絵から言葉や態度が生まれ、人生観を縁取る美意識が洗練される。人が欲して止まない人間的魅力とは、つまるところその絵の出来栄えによる。

 

 

生き方とはひとつのアートであると気づくだけで、見えなかった色も見えるようになる。そういう自由をひとつずつ手に入れることが、「自分になる」ことにつながっていく。