ライフシフト

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以前、介護の仕事に従事している教え子から、こんな話を耳にした。

 

 

 

 

「人気があるおじいちゃんやおばあちゃんって、奪い合いになるんですよ。職員が世話をしたがります」

 

「そうなんだ」

 

「はい、認知症は進んでいるのですが、人柄がすごく良くて、お世話をしてるとこっちまで元気になります」

 

「認知症は、穏やかな性格の人も豹変させると聞いたことがあるよ」

 

「私もそう習いました。でも私、必ずしもそうとは言えないと思います。認知症にかかわらず、老いていくと、人は丸裸になっていくように思います」

 

「丸裸?」

 

「そうです。自分を取り繕う力が低下すると、その人の本性が現れるように思います。しかも職員はみな、利用者さんの現役の時代にどんな仕事をしていて、地位や肩書きもわかっています。でも施設ではそんなの関係ありません。私、自分がとても貴重な体験をしていると思っています」

 

「本当だね。音を立ててライフシフトが進む今、とても大切なことに気づいたね」

 

 

 

 

人生100年時代の到来が叫ばれている。リンダ・グラットン氏の「ライフ・シフト」を読まれた方も多いことだろう。グラットン氏は高度なテクノロジーが社会を支配する第四次産業革命の到来と寿命の長期化によって、100歳の寿命で80歳まで働く時代の到来を予見している。

 

 

日本では石川義樹氏がライフシフトに関して、4ステージモデルの到来を指摘している。人生100年を0〜25歳のファーストステージ、25歳から50歳のセカンドステージ、50歳から75歳のサードステージ、75歳から100歳のラストステージに分類して、それぞれ順に春・夏・秋・冬にたとえている。

 

 

人生80年を前提とした60歳定年の昭和のライフモデルは崩壊する。今の50代から30代はちょうどその過渡期にいる。20代より前の世代は、上の世代がライフシフトへの急速な移行に対応しきれず、混迷を深める様子を目の当たりにするだろう。

 

 

60歳定年を前提とする昭和的価値観では、40歳にもなれば自分の若さに疑いを持ち、受身と保身にまわることが年相応の常識なのだと疑いなく納得していく。早く心が老いるようにと、急き立ててさえいるようだ。自分をアップデートすることをやめ、古い価値観と常識に縛られたまま、「自分は古い人間だから」と自虐的な言い訳を並べ、新しい価値観を身につけていく下の世代に古い価値観を押しつける。

 

 

パワハラと呼ばれるような威圧的な文言や態度は、自分をアップデートしない「心が老いた」上の世代の人間のあがきとも受け取れる。

 

 

そのような状況を見せつけられて育った今の10代や20代が上の世代を軽んじるのは当然のことだろう。次々と生まれる新しい価値を積極的に学ぼうともせず、人生経験から得た見識に基づく生き方や人間としてのあり方を教えてくれるわけでもない。むしろ数十年前のかび臭い知識と経験に寄りかかってあれこれ指示する姿を見せつけられるたびに、彼らは内心で哄笑を繰り返す。

 

 

考える力のある10代や20代は、親世代が享受した恩恵に浴することはできないだろうことはすでに気づいている。しかしながら、上の世代は未来を予見するための知識を得て教養も高めようとせず、これからの時代の生き方や考え方を示してくれる気配もない。古い常識を持ち出す彼らの怠惰さと、未来を示すことができない彼らの知性の惨めさに対して、10代や20代は「この上なくダサい」と冷笑を浴びせているのが実情だ。

 

 

ライフシフトが生み出すもの。それは「長く生きていることがそれ自体は価値ではない」という価値だ。新しい価値が次々と生まれる時代では、その価値に対応して自分を高めるのが価値となる。年長というだけで古い価値と経験とプライドをふりかざす人間は不様であり、軽蔑の対象になる。

 

 

今の10代や20代が求めるものは「深い物語」である。彼らは「深い物語」に飢えている。「深い物語」の中に、自分たちの生きる拠り所となる「丸裸」の人間像を探している。それに気づかずやがて年老いていく上の世代に対して、今の10代や20代が向ける目は、この上なく厳しいものになる。

 

 

人生100年時代へのライフシフトで問われるのは、人間としての「深さ」である。生きてきた時間と到達した深さを比べて、人間性を評価し、評価される。世代ごとの情報格差が失せ、権威や既得権益が崩壊し、過剰なテクノロジーが身近にあふれるほど、経験と教養と思索と品格で到達した「人間的な深み」を求め、求められる。

 

 

人間的な深みにおいて、下の世代が上の世代をたやすく上回る時代。それがライフシフトによって導かれる次の時代の本質の一面であると気づいているだろうか。

 

 

合理的で冷静な今の10代や20代は、容赦なく上の世代を値踏みする。年長を敬うべきという幻想にすがっているのは、年長の世代だけだ。下の世代の多くは「年長である」というそれだけの理由で年長を敬うという「非合理的な幻想」を抱いていない。

 

 

上の世代だけに都合のいい時代は終焉を迎えつつある。物事を単純化することと、単純に考えることはちがう。ライフシフトとは認識のシフトでもある。

 

 

(了)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈ごあいさつ〉

 

4月に「To the mentors of the future」としてHatena Blogに移行致しましたが、引き続き多くの皆様にプログを閲読頂きましたこと、ここに御礼申し上げます。新しい年が皆様にとって実りある一年となることを願っております。

 

石原弘喜

 

 

 

 

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