高度に鋭敏な感覚を持つ人はHSPと呼ばれる。その人々をHSPと認識して接した経験がある人ならば、次のことに気がついたかもしれない。
HSPの人々は心で考える。一方、HSPではない人々を非HSPと呼ぶならば、その人々は頭で考える。そう感じた人もいることだろう。その直感は、おおむね間違っていない。
HSPの人々は心で考えるために共感力が極めて高い。彼らは感覚が鋭敏であるあまり、相手から発せられる言動に表れない非言語的シグナルを、言動と同等かそれ以上に鋭敏に察知する。非HSPの人々には理解しにくいだろうが、HSPの人々の卓越した情報収集力にはかなわない。彼らは空間内の情報を瞬時に読み取るだけでなく、時間軸も移動できる。
内気、神経質、受動的。HSPの人々はそのカテゴリに分類され、そう評される。消極的であり、引っ込み思案で、自分の考えるを主張することをためらう。そのため、積極的で物事を進めていく非HSPの人々にとっては、HSPの人々は扱いづらい存在であり、何を考えているかわからない未知の存在として映ることもある。
しかし、実際のところ、HSPの人々は物事を深く考える。非HSPの人々が時間をかけて頭で考えることを、HSPの人々は瞬時に心で考える。しかし、行動には移さない。「とてもではないが、そんなことはできない」という気持ちに縛り付けられるためだ。
HSPの人々は、鏡のような湖面の中央に石を投げ入れる如く、自分の言動が波紋となって湖全体を揺らし続けることを知っている。その揺れの厚かましさに心が苦しくなる。石を投げることに、恥や自責や後ろめたさを感じてしまう。
自分は常に他人の言動によって神経が高ぶるため、自分の言動も同じように他人の心に波を立ててしまうのだろうと考えてしまう。それが恥や自責や後ろめたさを呼び込む。
HSPの人々は競争を好まない。人を出し抜く行動も取らない。HSPの人々にセクハラやパワハラについて意見を訊くと、想像もつかない別の惑星の出来事と感じていることがわかる。人の傷みや苦しみや喜びの共感し過ぎるため、ときどき感情をコントロールできなくなる。
以上がHSPの人々の一般的な類型であるが、メンターは彼らとどのように接したらよいのだろうか。それには次の三つの段階がある。
第一段階は分析。その類いまれな鋭敏さが、どの感覚を尖らせているのかを分析することから始める。視覚なのか、聴覚なのか、言語感覚なのか、非言語感覚なのか。どの感覚が鋭敏であるかをまず見極める。
第二段階はコントロール。その感覚によって得られる情報量のコントロールするように伝えるといいだろう。それはメンターがHSPであるという条件が必要となるが、自分になだれこむ情報の切断の方法や絞り込みの方法について、メンターとなる際に克服した鋭敏さのコントロールについて個人的な体験を話す。HSP同士ならば十分伝わるはずだ。
最後の段階は解釈。情報のコントロールがある程度可能になったとしても、HSPの人々は心で考える習慣が身についているため、頭のフィルターを通さずに何もかも直接心で受け止めてしまう。しかし、感じることと解釈することは別だ。感じたことに対する解釈の方法を教えることによって、感じたことは肯定的な知識と体験に転じる。
HSPの人々は非HSPの人々が気づかない情報までも取り込み、大量かつ迅速に処理する。時間当たりの情報密度が遥かに高い。これはHSPの人々が非HSPの人々に比べて濃密な時間を過ごしていることを意味する。しかし、多くのHSPの人々は、大量の情報を解釈しきれずに、その濃密さに負けてしまう。それを変えるのだ。
(続く)
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【HSP診断】
以下はHSP診断である。HSP研究の第一人者であるElaline N. Aron博士の著書「THE HIGHLY SENSITIVE PERSON」から以下の診断を抜粋して、私が日本語に訳した。
True「合っている」かFalse「ちがう」で答えて頂きたい。12項目以上にTrueと答えた場合、あなたは恐らくHSPだろう。しかし、仮に一つか二つしか合っていない場合であっても、その度合いが飛び抜けていれば、HSPの可能性は捨てきれない。
I seem to be aware of subtleties in my environment.
「環境の微妙な雰囲気を察知できるように思う」
Other people’s moods affect me.
「他人の気分によって影響を受ける」
I tend to be very sensitive to pain.
「痛みにとても敏感な傾向がある」
I find myself needing to withdraw during busy days, into bed or into darkened room or any place where I can have some privacy and relief from stimulation.
「忙しい日々が続くと、ベッドや暗い部屋またはプライバシーが確保された場所や刺激のない場所に逃れなくてはと思う」
I am particularly sensitive to the effects of caffeine.
「カフェインによってもたらされる効果にとりわけ敏感だ」
I am easily overwhelmed by things like bright lights, strong smells, coarse fabrics, or sirens close by.
「明るい光、強い匂い、ざらざらした手触りの布地、すぐ近くのサイレンの音など、そういった現象によって圧倒されやすい」
I have a rich, complex inner life.
「豊かで複雑な自分の内面世界を持っている」
I am made uncomfortable by loud noises.
「騒音によって不快な気持ちにさせられてしまう」
I am deeply moved by the arts or music.
「美術や音楽に深く感動する」
I am conscientious.
「良心的である」
I startle easily.
「びっくりしやすい」
I get rattled when I have a lot to do in a short amount of time.
「短期間でたくさんのことをしなくてはならない状況になると混乱してしまう」
When people are uncomfortable in a physical environment I tend to know what needs to be done to make it more comfortable ( like changing the lighting or the seating).
「人々がある環境で不快に感じているとき、より快適にするために何がなされるべきか気づく傾向にある(たとえば部屋の明かりを調整したり、席を替えたりするような)」
I am annoyed when people try to get me to do too many things at once.
「人々が私に一度にたくさんのことをさせようとすると、いらいらしてしまう」
I try hard to avoid making mistakes or forgetting things.
「物忘れをしたり、ミスをしないように特に注意を払っている」
I make it a point to avoid violent movies and TV shows.
「意図的に暴力的な映画やテレビ番組を避けている」
I become unpleasantly aroused when a lot is going around me.
「周囲でたくさんのことが起こっていると、不快になって神経が高ぶるようになる」
Being very hungry creates a strong reaction in me, disrupting my concentration or mood.
「空腹になると、集中力が乱れたり、気分が悪くなるというような強い反応が自分の中に起こる」
Changes in my life shake me up.
「生活に変化があると、混乱してしまう」
I notice and enjoy delicate or fine scents, tastes, sounds, works of art.
「デリケートで繊細な香り、味、音、芸術品に気づき、それを楽しむ」
I make it a high priority to arrange my life to avoid upsetting or overwhelming situations.
「動揺したり圧力を感じたりする状況を避けるために、自分の日常生活を調整することを最優先にしている」
When I must compete or be observed while performing a task, I become so nervous or shaky that I do much worse than I would otherwise.
「仕事をする際、競争しなければならなかったり、観察される状況に追いやられたりすると、緊張して不安になり、本来できるはずのことも全然できなくなる」
When I was a child, my parents or teacher seemed to see me as sensitive or shy.
「子どものころ、親や教師は自分のことを敏感で、恥ずかしがりやだと思っていたようだ」
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