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全世代の「教育力」を高める教育コーチのブログ

キラーストレスと戦う知的雑談力

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私たちの身体は常に複数の「敵」の攻撃にさらされている。その敵から身を守る鎧の役割、また敵の侵入によって傷ついた部位を治癒する役割。それは免疫力の役割として広く周知されている。

 

 

その最大の敵はストレスであり、中でも「キラーストレス」と呼ばれる脳細胞や血管を破壊するストレスの存在が明るみになった。キラーストレスとは特定のストレスの種類ではなく、慢性的なストレスに対する総称である。

 

 

キラーストレスにさらされ続けると、脳内にある扁桃体が肥大化し、些細なストレスに対しても過敏な反応を示すようになる。副腎からコルチゾール・アドレナリン・ノンアドレナリンといったストレスホルモンが分泌されやすくなり、血流を通じて全身を巡り、臓器や自律神経を「攻撃」する。

 

 

脳の吸収を超えるコルチゾールの過剰な分泌は、海馬の細胞を攻撃して「鬱」を誘発する。

 

 

それだけではない。ストレスにさらされていない人の免疫細胞は、増殖を企むガン細胞と絶えず戦っているが、前述したストレスホルモンは免疫細胞の機能を低下させるため、ガン細胞が増殖しやすい環境を生み出している。

 

 

キラーストレスの原因。それは「我慢」と「不安」である。前者は主に人間関係の不全による環境的ストレスであり、後者は将来に対する不安を反復して想像し続ける思考習慣のストレスをいう。

 

 

慢性的な我慢と不安は顔に険を刻み、刺々しく老いた印象を与え、さらに内臓疾患や鬱、ガンを誘発する。この状態を回避するためには、前回触れた「ウェルビーイング(well-being)」について熟慮する必要がある。

 

 

我慢と不安を強いられる状況に陥ったとき、人は「会話」を切望する。自分の話を聞いてもらいたい、自分が気づかない言葉をかけてもらいたい。それによって、我慢と不安に縛られている自分自身を解放したい。そう願う。

 

 

しかし、たとえ誰かと会話する機会に恵まれても、その相手から親近感、交感、共感、鼓舞、歓喜を刺激する言葉によって、我慢と不安を取り除き、または稀釈するきっかけを得ることができなければ、澱となって心の奥底に沈着する。

 

 

ところが実際、我慢と不安を完全に取り除くことは難しい。それゆえ根本原因をできる限り取り除き、残った部分は大きな世界を見せることによって稀釈するという方法で解決を図ることになる。

 

 

我慢と不安の数を分子としよう。その人の世界の認識の広さを数値化した分母の数が分子の数に近づくほど、1という100%に近づく。

 

 

ある人が抱える我慢と不安の数値が10、その人の世界の認識の広さが20だとすると、その人の心は50%も我慢と不安で占められていることになる。ところが、その人の世界の認識を倍の40に広げると、25%に減少する。

 

 

雑談を少し交わすと、相手の世界の認識の広さがうかがい知れる。知的雑談の習慣の有無、その幅広さと深さ。読書では賄いきれない自己肯定感の振動を感じる。

 

 

また我慢と不安の限界点も想像がつく。世界の認識の狭さゆえ、小刻みに不機嫌と苛立ちを繰り返し、我慢と不安を自己増殖させて分子の数を大きくする。連鎖的にストレスを増やす「キラーストレスの温床」が構築されてしまっている。

 

 

常に上機嫌でいる。これがウェルビーイングであり、キラーストレスを寄せ付けない状態である。そのためには日常的な知的雑談によって、世界の中にひとりで立ち続ける自分と向き合い、世界の広さと深さを謙虚に知ることが必要だ。それなくして我慢と不安を稀釈することは難しい。

 

 

何不自由のない生活であっても、我慢と不安という不自由さから自分を解放しない限り、表情から険が消えることはない。

 

 

(続く)