遺伝と環境、才能と習慣。
その四体の巨人は、人生がうまくいくための方法を考えるときに目の前に立ちはだかる。
ある人はあきらめる理由としてその巨人の力を借り、またある人は前に進む理由としてその力を借りる。とりわけ、才能という名の巨人はひときわ大きく見えるかもしれない。
人生がうまくいくためには、才能と習慣のどちらが大切なのだろうか。
この正解はすでに明らかになりつつある。多くの研究者たちは、生まれ持った才能よりも意志力に裏付けられた習慣が勝ると結論づけている。
心理学者のアンダース・エリクソン氏は、ある分野で成功するには一万時間の計画的訓練が必要だと論じている。意志力に基づいた計画的訓練、すなわち習慣の重要性について説いている。
また、心理学者のケリー・マクゴニガル氏もまた、意思力が人生の成功の核であることを示唆している。人生を左右するのは、生まれ持った才能ではなく意志である。マクゴニガル氏の書籍からは一貫した主張が読み取れる。
意志が変われば、思考が変わる
思考が変われば、行動が変わる
行動が変われば、習慣が変わる
習慣が変われば、結果が変わる
文言が多少違うとしても、似たような言葉を誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。
遺伝は才能の生みの親とするならば、環境は習慣の生みの親ということができるかもしれない。「遺伝」と「環境」という巨人の親が、才能と習慣という子の巨人を生み出す。
学生時代とそれ以降では計画的訓練のハードルの高さは変わる。学生時代の意志力をそのまま引き継ぐのは難しい。意志力を挫く「気が散ること」が増え、習慣が崩れる。学生時代はやり遂げられた計画的訓練が思うようにできなくなることも多い。
これは意志力の低下が原因であることは間違いない。「目的の欠如」は当然として、「環境の影響」は盲点となりやすい。
マクゴニガル氏が「意志力は感染する」と指摘しているように、良い習慣も悪い習慣も人から人へ感染する。
これを一歩進めると、自己肯定感や認識や思考も感染するという結論になる。いかなる才能も、それを引き出す自己肯定感や認識や思考があって初めて活きる。
環境が人をつくるのは孟母三遷の教えの通り。環境の選択が人を決める。「最善の環境とは何か」という問いかけに対する答えでもある。いくら最善の環境に身を置きたいと思っていても、それを定義できない人が、最善の環境を選べるはずもない。
どこにいても自分は自分。どの環境でもやっていける。そのことを経験によって確かめるのも一つの方法ではあるが、相応の犠牲も覚悟しなくてはならない。時間は有限で後戻りができないからだ。
環境の巨人を味方につけ、自身が習慣という巨人そのものとなって、遺伝と才能という二体の力を従える。変化の時代を戦う理想的な一個師団と呼べるかもしれない。
一つのことを十年。才能という巨人に踏み潰されないために続けてみる。もしかしたら途中で違う道だと気づくかもしれないが、そのまま前進することを勧める。
その十年の足取りが確かならば、その道はやがて思い描いた道と交わる。
(了)