To the mentors of the future

全世代の「教育力」を高める教育コーチのブログ

なぜあなたは部下を動かせないのか

f:id:kishiharak:20210602021038j:plain

 

自分の気持ちを言葉にすることを言語化と呼びます。日々たまる不安や不満を言葉に置き換えることによって、体の外へ捨てる。黙って相手に話を聞いてもらうだけで気持ちがすっきりするのはこういうわけです。

 

 

 

しかし、すべての感情が言葉に置き換えられるとは限りません。感受性が高く、繊細で鋭敏な感性の持ち主は、言葉にできない感情を抱えて暮らしています。

 

 

 

「それどういうことですか?」

 

 

 

その疑問が反射的に浮かんだとしたら、あなたは「言葉を使って会話をする人」である可能性が高いですね。

 

 

 

「誰でも言葉を使って会話するものなのでは?」

 

 

 

いいえ、そんなことはありません。「言葉を使わないで会話をする人」も一定の割合で存在します。もちろんエスパーのことではありません。言葉以外の「非言語」を無意識に使って自分の気持ちを伝えようとしている人は、家庭・学校・会社などに少なからず存在します。

 

 

 

たとえば、生後数ヶ月の赤ちゃんが目を開けてあなたの方を向いているとしましょう。言葉を話せる年齢ではありません。あなたならどうやってコミュニケーションを取りますか?

 

 

 

まず話しかけてみるという人は多いでしょう。しかし、その「会話」は大人に向けられるような理路整然とした言葉ではなく、意味のない喃語になるはずです。むしろ身振り手振りや表情といった非言語によって会話をしていることに気づくのではないでしょうか。

 

 

 

言葉の力は疑いようがありません。近代教育の一つの目標は、自分の考えを説得的かつ論理的に伝えることにあります。企業もまた、そうした人材の獲得に躍起です。

 

 

 

しかし、自分の考えをことごとく言葉で表現できるということは、ある意味で、容易に言葉に置き換えられる考えしか持ち合わせていないという見方も成り立ちます。

 

 

 

喜怒哀楽愛憎を受け止めるアンテナが大きい人は、ひどく落ち込んだり、飛び跳ねて喜んだり、嗚咽を漏らして号泣したりするでしょう。小舟の底から滲み出る感情の海水を外に掻き出して小舟が沈むのを防ぐには、言葉という容器は小さすぎて追いつきません。そのため、常に言葉以外の方法で海水を掻き出しています。

 

 

 

言葉を使いこなせる側は、そうではない相手がまごまごしているうちに、その場の主導権を握り、物事を進めてしまうことがあります。大きい声の人がリーダーになりやすいという研究結果を待つまでもなく、言葉が達者な人は、リーダーになる確率が高いのです。

 

 

 

 

しかし、会話力の真価とは、言葉に現れないメッセージを察知して解釈することにあります。海面から覗く氷の塊は氷山のほんの一部にすぎません。海面の下の無言の質量こそ、長い時間をかけて感受性が育んできた心の叫びです。

 

 

 

あなたがもし、なんらかの場で人の上に立つ役割を引き受けているとしたら、言葉にならないメッセージが常に誰かから発せられていると認識してください。

 

 

 

自分とは違う考え方や感じ方をする人々はたくさんいる。自分が正しいと思っていることは、もしかしたら誰かの可能性や才能や生きやすさを奪っているかもしれない。

 

 

 

そのような謙虚さに目覚めたとき、あなたは「考える言葉」と「伝える言葉」のほかにもうひとつ、「響く言葉」を手に入れるきっかけを掴むことができます。

 

 

 

もしあなたが人を動かす立場にあって、その立場を利用せずに人を動かしたいと思うなら、理屈や正論ではない響く言葉が必要です。

 

 

 

(了)