To the mentors of the future

全世代の「教育力」を高める教育コーチのブログ

人間関係が楽しくなる・日本人向けコーチング入門講座(2)

f:id:kishiharak:20210615152506j:plain

 

前回、コーチングは海外から輸入したマネージメントの新しい方法論であると書きました。

 

 

 

しかし、日本には「コーチング」のようなことができる人が存在しなかったのかと言うと、そんなことはありません。むしろ昔の人の方が「コーチング」が上手だったのではないのかなと思います。

 

 

 

「コーチング」というのは方法論でありマニュアルです。それは経験によって得られる試行錯誤の時間を省くために存在するものであり、本来ならあれこれ手探りで試して習得していくところを、先人が蓄積した知見を手順として整理したものです。

 

 

 

ある意味、それは諺にも似ています。先人が苦労を重ねて見つけ出した物事の核心を言語化したのが諺ですが、「間違いなく腑に落ちている」と断言できる人はそれほど多くないのではないでしょうか。

 

 

 

たとえば、「万里一空」という諺あります。宮本武蔵が著した「五輪書」の中の「空は一つしかないのであるから、何をしてもどこまで行っても同じ世界がある」という一節に由来しています。転じて「目標を見失わずに努力する」という意味の諺として知られるようになりました。人気のある諺のひとつです。

 

 

 

「目標を見失わずに努力する」というのはわかりやすいですが、「空は一つしかないのであるから、何をしてもどこまで行っても同じ世界がある」という意味を感覚として理解するのは容易ではありません。

 

 

 

ーーすべての物事に通じる本質は同じである。それゆえに、無駄なことは何一つない。考え方、取り組み方ひとつで、日常生活のあらゆることが目標へとつなげることができる。

 

 

 

このことを頭だけでなく身体で実感することによって、「万里一空」という「マニュアル」は自分の血肉へと変わります。

 

 

 

同じことを身をもって経験した人がこの諺に出会う。またはこの諺を知った人が経験を通じて身体に染み込ませる。そのいずれかによって諺は「自分のもの」となります。

 

 

 

「自分のもの」になって身体の一部になれば温度が生まれます。本から借りてきた言葉、ネットからコピペしただけの言葉、学んだだけの言葉が響かないのは、そこに「温度」がないからです。冷たくて、機械的で、自動的。テクノロジーの進んだ現代だからこそ、人間は言葉に温度を求めるのです。

 

 

 

「正論を確認したい、正解に気づきたい」という気持ちでコーチングを望む人々の無意識には、「温かい気持ちに触れたい」という人間の本質的な欲求が潜んでいることを見逃すことはできません。

 

 

 

温かさは相手への思いやりによって生まれ、冷たさはエゴイスティックな感情によって生まれます。温かさがまされば温かい言葉となり、冷たさが勝れば冷たい言葉となります。両者が拮抗していれば常温となるでしょう。

 

 

 

コーチングはティーチングと違い、相手に何かを教えて説得する方法論ではありませんが、言語によるコミュニケーションであることに変わりはありません。かつてのように日常生活や身近に多くの人間が介在し、言語的コミュニケーションの比重が高かった時代において、「言葉の温度調節」は不可欠でした。

 

 

 

「言い方」というのはまさにそのことを指します。人は言葉の内容よりも、言葉の温度を記憶しています。それが印象を決定づけ、惹きつける力に転換します。最近は相手を説得したり、気持ちを引き出したり、共感を誘う方法論やマニュアルがクローズアップされていますが、それは「温かさ」という前提があってこそ。

 

 

 

「温かさ」を生み出すマニュアルや方法論は存在しません。「万里一空」の中にそのヒントがあります。次回はその点について書いてみたいと思います。

 

 

 

(続く)