マネジメントの父と呼ばれるドラッカーは「非営利組織の経営」という著作の中に次のような言葉を残しています。
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組織のリーダー選ぶには何をみなければならないか。「integrity」である。重要なことは、わが子をその人の下で働かせたいを思うかである。その人が成功すれば若い人が見習う。だから私はわが子がその人にようになってほしいかを考える。
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ドラッカーの著作において、「integrity」には「真摯さ」という訳が当てられています。しかし実際は「真摯さ / 誠実さ / 誠意 / 高潔さ / 清廉潔白さ / 高い品格・品位 / 公正さ」という多くの意味が含まれています。つまり、日本語には「integrity」に対応する日本語が存在していないということになります。
体系的なマネジメントの考え方はアメリカで生まれました。日本とアメリカの結びつきを見れば、日本企業がマネジメントを「輸入」するのは時間の問題でした。
「昭和のカイシャ」から「現代の企業」へと生まれ変わるには体系的なマネジメントを輸入する必要がありました。最初に大企業を覆ったグローバル化の波を被らなかった中小企業も、近年のSDG'sの波に抗うのは難しくなっています。
コンプライアンスやハラスメントという言葉が輸入されて定着した今、「昭和のカイシャ」に戻ることはできなくなりました。少なくとも、今の高校生はドラッカーが提唱するリーダー像をインターネットやSNSを通じておぼろげながら知っています。
高校一年生の英語の教科書では、グローバルビジネス時代のリーダー像として、次のような人物像を描写しています。
1. 常に考えや振る舞いを変えない人物であること。 信頼に足りうること。誠実であること。
2. 人を励まし助けになること。すべてのチームメンバーを平等・公平・敬意を持って扱うこと。
3. 創造的であること。革新的であること。
4. 決断力を持つこと。敢えて適切なリスクを取ること。
5. 効果的なコミュニケーション技術を持つこと。 他の人の話を注意深く聞くこと。 自分の考えを明確で一貫性のあるものすること。
6. 前向きな気持ちを持つこと。 自信を持ち、明るく楽観的に仕事をすること。
7. 目的志向であること。チームに明確な目標を与え、それらを達成するための指導者として行動すること。
8. ユーモアのセンスを持つこと。
理想的なリーダー像は社会の裾野からじわじわと広がってきています。一方、「integrity」にぴたりと整合する概念が存在しないということは、日本はドラッカーが提唱するリーダーが出現しにくい風土であるといえます。
求められるリーダー像と現実の上司とのギャップ。それどころか、「尊敬できない上司」に悩ませられることが少なくありません。
ーー状況によって態度や言動を変え、保身的で利己的。部下の話を聞かず、自分の意見を一方的に押し付け、部下の失敗を感情的に責める。部下を育てるという意識が低く、場当たり的で一貫性に欠ける。コミュニケーション力やユーモアのセンス欠け、自分を変えるのではなく、部下を変えようと思っている。
これらの「尊敬できない上司」の特徴は結局、「人の気持ちがわからない」ということに集約されるでしょう。
実際、「尊敬できない上司」の部下からの相談が近年増加しています。そのような人々の中には、カサンドラ症候群に陥っているような症状が見受けられることがあります。
「尊敬できない上司」は部下の自己肯定感を低め、根こそぎ自信を奪います。精神面が不安定になり、やがて身体症状にも現れるようになり、離職に至るケースも少なくありません。
個人で直接コーチングの相談を依頼するケースや、企業から従業員のコーチングやカウンセリングの依頼を受けて行う場合もありますが、上司との関係性に悩むケースが増えているように思います。
管理職や役員を対象に企業研修において、部下への接し方や対応について話す機会も多くあります。そこでも彼らと部下や若い世代との意識のギャップを感じます。「今の若い世代は何を考えているかわからない」という怪訝な気持ちが、態度の端々から攻撃となって垣間見えるのです。
次回から「尊敬できない上司」を相手に、どのようにして自分自身を保っていけばよいのか、その手がかりについて書いてみます。
(続く)