先日、ある企業の管理者研修において、社長や役員を含めた管理者の方々に、身近な人の長所を十箇所見つけて褒めるという課題を出しました。その際、相手がその長所を自覚しているかどうかを確認するという条件もつけました。
一見すると、上司が部下を「褒める」というマネジメントの基礎的な訓練。しかしそのラッピングの中には、フィードバックを相手に行う訓練と相手がフィードバックを受ける経験という二つの箱を忍ばせました。
フィードバックを最も狭い意味で表現すると、「相手に対する評価」となります。認知の歪みや認識の偏りを直し、適切な評価を下すには時間がかかります。
一方で、フィードバックは伝え方が大切です。相手の心に響くようなフィードバックを会得するためには、場数を踏まなくてはなりません。面はゆい気持ちを抑えて、相手の長所を率直に評価する。これからの部下のマネジメントに不可欠な姿勢です。
自己肯定感が低い人にとっては、相手を褒めることにも、褒められることにも抵抗感があるかもしれません。総じて日本人は自己肯定感が低いことで知られていますが、そのためにフィードバックという習慣を持つ人が少ないとも解釈できます。
しかし現実には、褒められたいと感じている人はたくさんいます。褒められることで気分が高揚し、相手の自己肯定感だけでなく、自分の自己肯定感も高まります。相手を褒めることは自分を褒めることにつながるからです。
相手に心地よいフィードバックができなければ、よりハードルが高い「相手の耳に痛いフィードバック」は一層難しいでしょう。相手の行動を客観的に評価して、目標に向けた行動の改善を促すことがフィードバックの本質です。短所や欠点を怒鳴りつけ、萎縮させるような感情的で野蛮な方法は誰の役にも立ちません。
日頃から相手に寄り添っていれば、相手に対する関心が途切れることはなく、意識せずとも相手が気づいて欲しいことはもちろん、相手が気づかない相手の長所も発見することができます。
実際、今回ある方が配偶者に課題を実践したところ、その配偶者の方は「見えない努力」を評価されたことに対して涙が出そうなほど感激したそうです。
繊細な洞察力、それを「褒める」という形で評価する気概、それを言語化する力、そして伝え方。どれかひとつ欠けてもうまくいきません。しかし、「褒める」ことなしで信頼関係を築くことは本当に難しいのです。
(了)