経営者の相談を受けていると必ずと言っていいほど、人材育成やマネジメントに関する話題が上がります。社員が思ったように動かない、仕事をしない。ガバナンスやファイナンスという企業の評価軸が変化しても、経営者が抱える悩みの本質は、企業が人で成り立つ以上、この先も変わることはありません。
この問題に直面した経営者のリアクションは二極化します。自分の人間的未熟さに原因を求めるか、それとも社員に責任を押し付けるか。該当分野の知見が確立したおかげで、信頼関係のない組織は社員の意欲が損なわれ、チームビルディングが機能せず、生産性が向上しないことがわかっています。
子は親の鏡であるように、社員は経営者の鏡。社員を批判する経営者は、自身の才覚のなさや人間性の未熟さを告白しているようなものです。
人が作り出す現実は常に揺らいでいます。メリットとデメリット、長所と短所、強みと弱みが重ね合っています。その重ね合った状態を企業的現実として確定させるのが経営者の役割です。つまり、経営者の認識ひとつで、社員の長所や短所が引き出され、企業の未来が絞られます。
他者と本当の意味で信頼関係を築いた経験があるかどうか。経営的現実をプラスに確定させ、企業を繁栄させるためには、その経験が不可欠です。もし、その経験がないとしたら、社員と対話を重ね、相互理解を深め、信頼関係を真摯に築く努力が求められます。
経営者が社員を効率よく使って働かせようと画策しているうちは、ROICの数値が良くなることも、社員のウェルビーが向上することも、経営者として社員からの尊敬を得ることも難しいでしょう。
(了)