変化できる人が持つ「綱渡り」の技術

綱渡りをするときは、両腕を広げてバランスを取る。

 

 

右腕と左腕を翼のように水平に広げ、よろめく身体を小刻みに立て直しながら、一歩ずつ前に進んでいく。

 

 

右腕がプラスであれば、左腕はマイナス。符合は異なれど、同じ絶対値を持つ。原点が胴体であるとするならば、正反対の右腕と左腕は同じ長さを保ったまま、不安定な身体全体に安定を与えている。

 

 

綱渡りは綱を渡ることが義務づけられている。無風であろうと、横風であろうと、向かい風であろうと、バランスを取りながら歩を進めて行かなければならない。

 

 

どんなに屈強な身体でも、右腕一本だけではバランスを保つことはできない。左腕だけを鍛え上げても、同じ筋力が右腕になければ、やはりバランスを崩す。

 

 

慎重さは大胆さがあってバランスが取れる。大胆さを欠いた慎重さは、単なる臆病に過ぎず、慎重さを持たない大胆さは無謀さに沈む。

 

 

優しさのない厳しさは、芯から凍えた傲慢であり、厳しさのない優しさは、表面だけ温い芯が凍った欺瞞のようだ。

 

 

変化を拒む自分らしさは、頑固さによって呼吸を封じられて窒息し、自分らしさを失った変化は、陽炎のように立ち上る幾つもの自分の姿に惑わされる。

 

 

前を見るなら、後ろも振り返らなければならない。遠くに目線を届けるなら、足もとにも気を配る。最悪の事態を予測するなら、最善を希望する。自分の意志を貫くなら、相手の心も考える。

 

 

右腕と左腕を同じ高さで、同じように伸ばす。右腕を意識しながら、左腕も意識する。どちらかが傾いたら、どちらかで修正する。

 

 

だから綱渡りは楽しい。

 

 

(了)