前回の続きです。
上司は職務上のリーダーです。職務上であってもリーダーであることに変わりはない以上、次の四つの条件が求められます。
①規範となる
②羅針盤となる
③調整する
④鼓舞する
①を土台として、他の三つが成立します。①がなければ他の三つは宙に浮いた空想の産物となります。
①は人間性です。高潔さ、公明正大さという現代では希少となった資質を備えた人格のことです。近年、ドラッカーを祖とするマネジメント論の普及によってこのようなリーダー像が浸透してきたものの、現実的に①のような上司と出会う可能性は高くありません。
どんなに自己研鑽しても、本当のリーダーとしての資質を備えた上司、すなわち「尊敬できる上司」に出会える保証はありません。しかし、数多くの出会いの経験値を積み重ねることによってその確率を高めることはできます。
できるだけ多くの人間と出会い、書物などを通じて多様な人物像に触れる。そのためには、自分の生活圏や文化圏と異なる人々の「異文化交流」をお勧めします。この「異文化」には「異世代」という意味も含まれます。
属している会社や組織は世界の全てではなく、それは実際の世界のほんの一部に過ぎません。現実の全てだとしても、今という時間の一過性の現象にしか過ぎず、自らの選択ひとつで現実というスクリーンから消すことができます。
多くの人間と出会い、多様な人物像に触れること。その経験を習慣にすることで、少しずつ人間に対する洞察力が高まります。
「尊敬できない上司」の何が足りなかったのか。それとも本当は尊敬できる上司だったのに、自分の未熟さで真価を見抜くことができなかったのか。自分の成熟度に比例して、人間の全体像が少しずつ見えるようになります。
「尊敬できる上司」を探しながら多くの人間と出会い、多様な人物像に触れて「人間を見極めるための経験値」を積み重ねるという並行した行動のその先にあるもの。それは「尊敬される上司」としての自分自身かもしれません。
(了)