To the mentors of the future

全世代の「教育力」を高める教育コーチのブログ

親は子どもに勉強を教えたほうが良いのか

 

現在、わたしは小学生から高校生を対象に1on1の授業も行なっています。そのうちの半数以上は、かつての教え子の子どもやかつての部下の子どもです。部下というのは、かつて幾つか塾を経営していた際、その当時雇っていた塾講師のことです。


子どもの誕生から節目ごとに彼らから近況連絡があり、お勧めの絵本や教材を質問されました。たびたび受け取る子どもの情報をもとに、その子に合った図鑑や本を薦めるといった交流を重ねてきました。しかし、それ以外には、子育てに関するごくありきたりな質問に答える程度で、何か特別なコーチングをするということはありませんでした。


その子たちが幼稚園や保育園の頃から教えてきましたが、宿題を出すことはほとんどありませんでした。わたしが上司だった時代に、大量プリント型暗記学習の弊害を訴え続け、闇雲に大量の宿題を生徒に出さないように伝えてきたことを覚えていたのでしょう。


宿題は学習習慣の確立や自律学習のきっかけとして必要ですが、行き過ぎた宿題は学びの本質を歪ませます。宿題をこなすことや覚えることを勉強と錯覚してしまい、不快な感情が刻まれ、考えることを煩わしいと感じるからです。


彼らは塾講師だった経験と知識を活かし、「我が子に合った学習習慣」を身につけるためにはどうしたらいいかを考え、試行錯誤を重ねながら地道に取り組んできました。

我が子に最適な宿題の量や範囲を決めて取り組ませ、正解できなかった問題は丁寧に説明します。親の頭の中にある理想的な子ども像に近づけるのではなく、子どもを認め、受け入れ、その感情を整えながら力を引き出そうとしてきました。


必然的に親子のコミュニケーションも高まり、勉強を介したゆるやかな師弟関係が生まれます。彼らは手に負えない問題やうまく説明できない問題だけわたしに解説を依頼してきました。不思議なことに、塾講師だった親のどの家庭も同じような授業のサイクルに収まりました。


偏った親の考えややり方を子どもに押し付けることはもちろん、親として威張ることも、大きく見せることも、子育てにとっては毒です。また、砂糖が脳に強い中毒性があるように、甘やかすだけの子育ても毒になります。


彼らは塾講師の経験を通じてそれを学んだからこそ、子どもたちの感情のバランスを上手に取って、学習習慣を確立できたとも言えます。


「親となったかつての部下」には、母親も父親も含まれています。父親のひとりは、毎日子どもに合わせたプリントを作成して取り組ませています。子どもは毎日それを解き、学校の宿題を終わらせ、週一回わたしの授業を受けるだけ。「石原先生の好きなように授業してください。勉強は家でやります」と言われたときはさすがに笑ってしまいましたが、今では小学校の担任教師が「初めて見ました」と驚く成績を取るほどになりました。


他の子どもも同じように、学校の宿題以外の問題を何ページか解いて、わからない問題は塾講師だった父親や母親に尋ね、授業でわたしが補完するという感じ。学校の内容が簡単でつまらないのというので、首都圏の中学受験の内容をクイズやパズルのような感覚で出題しています。


その子どもたち全員に共通しているのは、わからないことや難しいことに対して、ネガティブな感情を持たないということです。未知の知識に目を輝かせて聞き入ります。わたしは生徒が自分の言葉で説明できたときに「理解できた」と判断しますが、その子たちの説明能力の高さには目を見張ります。


二十代で塾を起業したての頃、わたしは「親が子どもに家庭学習の勉強をみるスキルを高める講座」を開こうとしたことがあります。結局それは書籍に出版によって間接的に実現したことにしましたが、こうして成功例を目の当たりにすると、誰よりも親が子どもの学力の手綱を握っているのだと改めて確信させられます。


(了)